東急株式会社 インタビューレポート

渋谷再開発6,000億円の全容が始動—2032年「巡航速度」に向けた価格転嫁と資本戦略の二刀流

配信日2026年6月10日 19:05 JST

エグゼクティブ・サマリー

エンヴァリスは2026年6月9日に、藤原 裕久氏(取締役 専務執行役員)より、通期決算発表後の取材機会を得た。東急は、渋谷大型3物件(Shibuya Upper West Project、渋谷スクランブルスクエア第Ⅱ期、宮益坂地区第一種市街地再開発事業)の着工体制が整い、2032年の巡航速度到達に向けた成長シナリオの輪郭を明確に示した。既存テナントとの賃料更改では平均で10~15%程度のを実現しつつ、新規テナント誘致では月坪5万円超のオファーが可能な水準に達しており、6年後の賃料水準一本化が視野に入る。ホテルADRは前年比2,000円増の2万8,000円を見込み、フラッグシップホテルでは6万円台後半~7万円超と、アジア主要都市のスタンダードに接近。財務面では社債型種類株式の発行も検討し、有利子負債水準とのバランスをとった資本政策を明示しており、大型投資期における財務健全性への意識の高さが際立つ。

企業からのメッセージ

渋谷の大型物件の竣工と既存テナントのロールオーバーが、今からちょうど6年後に同時に完了する。そのタイミングで渋谷の賃料交渉は一本化され、収益は巡航速度に入る。鉄道の運賃改定については前回の改定から3年が経過している。すぐに再度の運賃改定を申請できる状況ではないが、⾜元の物価、⾦利等の上昇は想定を上回っており、安全性確保や利便性向上、⼈材確保等、持続的な成長を意識し、必要な状況になれば、適切なタイミングでの改定を検討していきたい。海外投資家からは初乗り運賃1米ドル以下は相当安いと指摘され、むしろ勇気づけられた。

インタビューで示された主な論点

  • 全事業横断の価格転嫁と収益成長の設計図

    27/3期の不動産販売業を除く営業利益950億円(前期比+7.5%)の達成に向け、不動産賃貸業における賃料引き上げ(前期比+9.5%)、ホテル・リゾート事業におけるホテルADR上昇(前期比+2,000円の2万8,000円)、生活サービス事業での買上単価上昇といった収入向上を三位一体で推進し、人件費+70億円・修繕費増といったコスト増を上回る利益成長の道筋を、強い意志による価格転嫁の実現をもって達成していく。

  • 渋谷再開発6,000億円投資の確実な執行体制

    Shibuya Upper West Project(2029年度竣工予定)、渋谷スクランブルスクエア第Ⅱ期(2031年度竣工予定)、宮益坂地区第一種市街地再開発事業(2031年度竣工予定)の大型3物件はいずれも施工会社との合意・着工が完了または具体化済み。工事費高騰に対するコンティンジェンシーも織り込み済みとし、6,000億円の投資予算における追加コストリスクは大型物件に関しては既にクリアとの認識を示した。

  • 規律ある財務戦略とバランスシートの最適化

    純有利子負債1兆3,000億円に対し株主資本9,000億円と約4,000億円の格差が存在する中、規律ある財務戦略を図る方針。有利子負債の総量を意識し、資金調達には公表している社債型種類株式の活用可能性や、政策保有株式を含む資産売却によるバランスシートの最適化を明言した。

エンヴァリスの着眼点

インタビュー Q&A ハイライト

  • Q

    不動産販売業を除く営業利益+7.5%のドライバーは何か

    A

    不動産賃貸業では契約更新を迎えたテナントのうち70%程度と増賃合意が取れ、賃料は約10―15%の上昇が実現している。加えて足元の需給逼迫からフリーレントの提供も減少する状況にあり、賃貸業の営業利益は前期比+9.5%を見込む。ホテルADRは前年の約2万6,000円から2万8,000円へ上昇、東急ストアは一時的に大型店舗の閉鎖があったものの、営業利益50億円超を確保する見通しであり、インフレ環境を追い風にした価格転嫁が全事業で進展している。

  • Q

    交通事業の修繕費増は先行投資か恒常的なコスト増か

    A

    両面の性質を持つ。工事会社の人件費上昇や電気系部品などのマテリアルコスト上昇は構造的な要因であり、輸送人員増による収入増と他コストのマネジメントでカバーしていく方針。今期の設備投資688億円は車両更新や信号システム更新を含んでいるが、観察期間を終了した運賃改定を戦略的に準備していくことでコスト増への対応力を高める考え。

  • Q

    渋谷再開発の工期延長が投資回収に与える影響はどの程度か

    A

    当初2027年に全物件竣工・2030年巡航速度の計画だったが、コロナで3年、各種協議延長で3年、工期延長で1年、合計で実質5~6年の遅延が生じ、巡航速度の到達は2032年となる。渋谷だけで総額6,000億円の設備投資を要するが、現在進捗中のプロジェクトについては、工事費や工期スケジュールについて昨年に見直しを行っており、すでに着工済みの物件もある。ただし今後新規に企画・設計する物件については工事費高騰を見据えた圧縮や延期を含む戦略構築が必要との認識。

  • Q

    有利子負債の拡大と金利上昇にどう対応するか

    A

    固定比率78%、社債の平均デュレーション約8年、長期借入の平均約7年と現時点では適切な水準にある。一方、既存調達手段の競争力を維持するため、既存株主利益に配慮した社債型種類株式の活用も含めた資金調達の多様化を図る方針。インタレストカバレッジレシオの水準も意識し、有利子負債の総量にて管理する。総量を超過した分は、政策保有株式や資産流動化などで圧縮していく。

  • Q

    配当性向30%への到達時期と自社株買いの方針は

    A

    大型物件竣工後の巡航速度到達時(6年後~10年後)に配当性向30%へ到達する目線を持つ。当面は32円の年間配当を1円・2円と着実に引き上げていく方針。自社株買いについては、自己株式の規模が既に大きくなっているため闇雲に拡大はしないものの、持合い解消に伴う金融機関からの株式放出(当座約2,000万株を想定)を見据えながら、一定規模のバイバックを機動的に組み込んでいく考え。

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