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三谷産業株式会社

8285・東証スタンダード・卸売業

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三谷産業株式会社8285

本コンテンツは、ENVALITHが2026年9月に実施した、三谷産業株式会社 経営陣への取材(インタビュー)に基づき編集・構成したものです。記載内容はいずれも取材時点における経営陣の見解です。

経営者の「言葉」と「ビジョン」

創業の原点とパーパスの浸透度

同社は98年前に設立された企業であり、そのルーツは福井県の三谷家(三谷合名会社。現三谷商事)にある。創業者の三谷進三は三谷家の三男として、父・三谷弥平の事業である祖業の石炭を金沢(石川県)で販売するよう命じられ、大学進学を断念してビジネスに注力した経緯がある。進三はボイラーの燃焼効率を独学で学び続け、当時としては異例の売り方で市場に切り込んだとの認識である。顧客の貯炭場に年間消費量を大幅に上回る石炭が山積みされている実態に着目し、「必要な時に必要な量を届ける」という提案を行った。10トンの注文に対して6トンで十分と伝え、余った土地をより有効活用できると提案するスタイルであり、当時17歳の進三は「子どもが生意気なことを言っている」と叱責を受けながらも、徐々にその売り方を浸透させたとしている。

第二次世界大戦の影響により石炭が統制物資に指定され売り物を失ったが、北陸界隈に広まっていた進三の評判を受け、顧客だった日産化学や日本曹達などの化学メーカーから、同社が取り扱う化学品の拡販を打診されたことが化学品ビジネスへの進出契機となった。その後、経営が悪化していた日本硬質陶器(現ニッコー)の立て直しに進三が関与し、同社の海外展開の流れで進三が渡米した際、米国ではすでに住宅設備機器やエアコン、コンピュータが普及している現状を目の当たりにし、これを三谷産業として日本で展開したいとの想いから事業の多角化が進んだとしている。

事業の性格としては、卸売業に分類され外部からは商社と理解されやすいが、物を左から右に流すのではなく技術も深く理解した「エンジニアリング商社」を自称している。時代の流れとともに顧客ニーズを踏まえてものづくり領域へ進出しており、現在はグループ全体で約半分がものづくり、残り半分が商社ビジネスという構成にある。商社で培った顧客ネットワークを最大限活かしつつ、ものづくりで貢献できる領域には積極的に投資を行い、自社にしかできない技術開発を通じて顧客にとっての最適を追求する企業集団との位置づけである。

「我々は商社だとかメーカーだと、あえて自分たちが何者かを定義しすぎずに、時代とともに柔軟に変化していく。創業98年のベンチャー企業と自称している」
— 専務取締役CFO 内田 氏

5年後・10年後の世界観

事業が多角化しているため業界を一括りに定義することは難しいとしつつ、とりわけグループ売上高の4割を占める化学品セグメントについては、塩酸・硫酸・苛性ソーダといった基礎化学品の仕入販売という商社ビジネスは国内需要が徐々にシュリンクするとの見方である。一方で製造業の国内回帰の動きもあり、取引先に電子部品メーカーが多く半導体需要が拡大していることも踏まえ、爆発的な伸びはないまでも堅調に推移するとの認識である。

医薬品ビジネスでは、子会社にて富山の八尾工場と東京・町田の2工場で医薬品原薬を生産している。薬価改定が従来の2年に1回から年1回となり、数量ベースでは国内が伸びる一方で単価下落が進む環境にある。数年前に行政処分を受けた経緯があり、その後2〜3年にわたりGMP基準に則った生産活動への改善活動を進め、業績も回復してきているとしている。薬価の先行きが見通せないなか、より付加価値の高い品目、自社にしかできない原薬に特化する方向であり、長期収載品・ジェネリックに加え先発品向け原薬の製造も積極的に広げる方針である。製造方法では東京大学等と共同研究する連続フロー法により大幅な生産効率化と環境配慮型生産が可能となる見込みである。

ほか、ものづくり領域については、自社で設備投資し工場というアセットを持つパターンと、顧客ニーズに基づき委託先を活用しながら間に入ってサプライチェーンを構築するパターンの両方を展開する。商社ビジネスよりも付加価値の高い技術の構成比を高めて利益率を引き上げる取り組みを進めており、技術力の向上に伴い今後5年・10年でも拡大可能との見通しである。

成長ストーリーの考え方

TAM(有効市場)と成長の余白

主戦場の規模感

厳密な市場規模分析は行っていないのが実情であり、個々のビジネス単位では「この商材なら何千億円のマーケットが狙える」という議論はあるものの、グループ全体のTAMを積み上げて考えたことはなく、また数百億円程度の売上がいくつも併存するようなビジネスを志向したいと考えているため、三谷産業は、個別の市場規模を単純に合計することは適切な市場規模の捉え方ではないとしている。

収益構成

化学品セグメントが売上構成比で約40%を占める最大セグメントである。海外ビジネスは売上約1,200億円のうち2割前後で、ベトナム一国に集中しており、同国内に子会社7社を有する。

空調設備工事の需要構造

直近の連結業績を牽引しているのは空調設備工事セグメントである。建設市場の活況と建設人材の不足を背景に、設備サブコンとしての存在感をこれまで以上に発揮して事業展開できている。ただし新築需要は東京都心でもあと数年程度との見立てで、「プチバブル的」かつ一部都心に限られた動きとの認識である。その後はリニューアル需要が高まると見ており、リニューアルは新築よりも付加価値を発揮できる同社の主戦場であり、シェア拡大が可能との見通しである。

隣接市場・新規事業

健康食品・ライフサイエンス分野では、海水温上昇によるカツオや昆布などの海産物資源の漁獲量減少で日本の出汁文化が脅かされているという社会課題に対し、安定生産・安定単価のキノコ(えのき)から成分を抽出し、カツオの代替ひいては新たな素材となるエキス・出汁の開発販売を手掛けている。インフラ分野では、国内に約70万本あるとされる橋の老朽化という社会課題に対し、独自のプラズマ技術を使って開発した炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)を用いた老朽化橋梁の補強材料の開発販売を進める。加えて炭素繊維のリサイクルにも取り組み、世界的にも先行しているとの自負を示している。飛び地もなくはないが、基本的には6つの事業セグメントに隣接する領域を中心に、社会的意義の大きい取り組みを新規事業領域として設定し、投資を継続する姿勢である。

独自の競争優位性(Moat)

100年の顧客ネットワーク

約100年に及ぶ歴史の中で培ってきた顧客とのネットワークが競争優位性の一つとの認識である。建設・化学品・情報・半導体・電子部品関連の取引ボリュームが大きい一方、それ以外の顧客も数千社規模で存在し、分散が図られている。

6セグメントの「複合力」

ループ従業員約3,500名(うち約6割がベトナム人)という規模であり、日本を代表する大企業ほどの規模ではないため縦割り化にならず、むしろこのことが経営の最たる強みとしている認識である。顧客課題が複雑に絡み合う傾向が強まるなか、一見ITの課題に見えて実は別分野の課題であるようなケースに対し、複数セグメントがタッグを組んで多面的に解決する「複合力」を強みとしている。顧客を一つのセグメントだけで捉えず、常に複数セグメントで向き合う社内の取り組みが行われている。

技術への深い理解と先端テクノロジーの早期導入

単なる商社ではなく技術への深い理解がなければ顧客にとって最適な提案はできないとの認識であり、技術の追求が差別化要素との位置づけである。先端テクノロジーの早期取り込みも特徴であり、AI社外取締役の導入は日本で最も早かったとの認識を示している。2023年をグループの「AI元年」と位置づけ、AIに関する知識・用語の社内共通化を図るため日本ディープラーニング協会のジェネラリスト検定の取得を全社的に奨励し、取得者率は75%超に達している。また樹脂・エレクトロニクスセグメントの自動車部品製造事業では、ベトナム工場の検査工程にAIを用いた外観検査装置を導入し、自動車サプライチェーンのTier1・Tier2を含めても先行しており、Tier1からも高く評価されているとしている。

KPIの先行指標

KPI備考
営業利益・営業利益率最重視する指標。両社がwin-winとなる良いビジネス、セグメント同士の複合力や社外との共創を展開した結果、売上高1,000億円を突破。近年は利益重視へ転換し、営業利益率に徹底的にこだわる方針
資本効率(ROIC)世の中の流れも踏まえ、より筋肉質な体質に向けた改善活動を社内で推進
建設市場の動向・建設人材の不足最も分かりやすい追い風指標。職人不足により設備サブコンである同社の優位性が働く。資材高騰も含め工事人材を確保できない案件が増加し、設備サブコンとしての存在感を発揮
売掛債権の回転期間(回収サイト)商社であるがゆえに回転期間の長い取引先があり、CFO自身も注視。決済条件の都度見直しと回収サイト短縮を地道に継続

収益構造と資本効率

売上高拡大のロードマップ

DS(付加価値分配計算書)として、5年後の2030年度の売上を約1,400億円と開示しており、年率5〜6%程度の成長を前提としている。これまでの売上高成長率は8〜9%程度で、成熟産業の中にあってはトップラインを比較的高めに推移させてきたとの認識である。ただし利益にこだわる方針への転換に伴い、売上成長のためにリソースを投下するよりも利益を上げることにリソースを使う方針としており、従来対比では売上成長率を低めに見ている。

収益性改善のロードマップ

連結営業利益率が低い要因として、化学品セグメントと住宅設備機器セグメントの利益率の低さを挙げている。化学品セグメントは売上構成比約40%を占める最大セグメントである一方、商社ビジネスとして欠かせない化学品の仕入販売や先行投資の影響で6セグメントの中では相対的に利益率が低く、テコ入れが必要との認識である。付加価値の高い独自商材やソリューションの提供、リサイクルを含む環境ビジネスなどを推進し、一方で商社ビジネスにかける固定費を下げていく方針である。

住宅設備機器セグメントも先行投資の影響でここ数年赤字が続いており、事業構造の抜本的改革を要するとしている。富裕層をターゲットとした高付加価値製品の拡販を推進するため、保有する住設ブランド(テセラ、ジャクソン、インテンザ等)のブランディングを一層推し進め、富裕層に刺さる製品展開によって赤字脱却を狙う方針である。

資本配分(キャピタル・アロケーション)の方針

優先順位配分先詳細
1成長投資(設備投資)事業展開に関わる設備投資を最優先。特に設備投資が比較的大きい化学品、樹脂・エレクトロニクス、住宅設備機器の各セグメントにおいて、ものづくり中心の生産効率化や新技術開発のための投資を積極化
2M&A自前主義にこだわらず、複合力を最大化するうえで必要なものは外部から取り入れる方針。協業に加えM&Aも積極的に仕掛ける
3株主還元・従業員還元DSで方針を開示。株主だけでなく従業員への還元も重視し、バランスの取れた還元を志向。2025年度の配当額と株主優待額の合計は9億円弱で、2030年度には80%以上増の約16億円を計画
ROE目標

ROEはあまり重視しておらず、社内のマネジメント指標としても使用していないのが現状である。

ROIC目標

CFO就任以降、数年前から積極的に取り入れており、まずは10%の水準に持っていく必要があるとの認識である。

なお、2030年度の還元計画の策定時点では当期予算策定前の状況が織り込まれていた経緯があり、足元の業績進捗に鑑みれば還元額はさらに大きくなる余地があるとの期待を示している。

リスクへの向き合い方とレジリエンス

マクロ環境の変化への耐性

為替

売上約1,200億円のうち海外ビジネスは2割前後であり、売りも買いも両方あるため相殺され、為替で業績が大きくブレることはないとの認識である。海外ビジネスでは輸出面の構成比がやや高いため、円安に振れると業績が改善する方向にある。

金利上昇

ここ数年で有利子負債をかなり圧縮してきている。加えて取引先との決済条件を都度見直し、商社であるがゆえに長期化しやすい売掛債権の回転期間について、地道に回収サイト短縮を継続している。

地政学リスク

ホルムズ海峡の封鎖により、樹脂エレクトロニクスの自動車部品生産に使用する樹脂材料の調達が影響を受ける局面があった。一社購買を避け複数ソースから調達する方針を、樹脂エレクトロニクスに限らず他セグメントでも注力している。地政学リスクが議論される以前から与信管理を徹底しており、販売与信に限らず購買与信の制度も有し、調達先が安定供給できるかという観点で厳格な審査を行っている。顧客への安定供給を重視する姿勢に基づく取り組みとの位置づけである。

ダウンサイドシナリオの想定

空調設備工事の需要反転

業績を牽引する空調設備工事セグメントは市場の活況を背景に好調だが、数年後にはこの状況が続かないとの前提であり、新築からリニューアルへの需要シフトが想定通り増加しない場合、同セグメントは苦しい状況になるとの認識である。

半導体バブルの崩壊

AI普及に伴い半導体需要が拡大しているが、これが一気に崩壊した場合、取引ボリュームの大きい電子部品メーカーの需要が悪化し、化学品セグメントの供給需要が低下するリスクがある。

ベトナムの国策変更

海外ビジネスはベトナム一国集中であり、例えば外資への課税といった制約が大幅に強化されるような国策の方針変更があれば影響は大きくなるとしている。ただしベトナムは東南アジアでも情勢が比較的安定し、宗教に寛容で若年労働人口も大きく、高水準の経済成長が続いていることが進出の理由でもあるとの認識である。

プランB(事業ポートフォリオによるヘッジ)

複合的に事業展開していること自体がリスクヘッジになっており、一定程度ヘッジできているとの認識である。半導体・電子部品分野以外の顧客も数千社存在するため、会社が傾くような状況にはならないよう分散が図られている。

ガバナンスと執行体制

役員報酬体系

ストックオプションや生株による報酬は現時点では導入されておらず、基本報酬+業績連動報酬に、一部少額の非金銭報酬(役員社宅等)を加えた構成である。株価との連動は現時点ではしていないのが実情である。ただし業績評価制度の見直しを進めており、株価の組み込みは要検討としつつ、ROIC指標の導入など資本効率を評価制度に組み込むことは検討中である。2025年7月に発表されたコーポレートガバナンス・コードの改定も背景にあるとしている。

サクセッションプラン

経営幹部の育成プランを近年作成しPDCAを回しており、指名報酬委員会や取締役会に適宜報告され、必要に応じて昇格人事を実施している。CEOの育成についてはOJT的な性格が強く、2週間に1回、常務以上の役付役員が全員集まり長時間議論する常務会等を通じてCEO・CFO・COOとしての資質を見極め、社長の目線から不足があれば研修プログラムに参加させる運用である。

ESG・サステナビリティ

マテリアリティ(重要課題)と業績の連動

環境(E)

循環型社会への貢献を重視しており、マテリアルリサイクルを多方面で展開している。CFRPから炭素繊維を取り出すリサイクル炭素繊維事業はその一例だが、短期的には数字が上がらず長い時間軸で考える必要があるとの認識である。炭素繊維業界はバージン品ですら出口を迷走している段階で、リサイクル炭素繊維の普及は相当先と見つつ、その状況でも先駆けて投資を実施している。取締役会でも活発に議論されているテーマである。また連続フロー法による医薬品原薬製造の研究は、将来的には生産効率化と環境配慮型生産の両立を狙うものである。老朽化橋梁の補強材料も、掛け替えではなく既存アセットを長く使うという環境面の要請に応える取り組みと位置づけている。

社会(S)

キノコ由来の出汁エキス事業(海産物資源の漁獲量減少による出汁文化の危機をも背景とした新たな素材の模索)、独自のプラズマ技術を使って開発したCFRTPによる橋梁補強(約70万本の橋の老朽化)など、社会的意義の大きい領域を新規事業の設定基準としている。社員の命と生活を守る取り組みも重視しており、災害時に7日間程度生活できる震災備蓄品を会社費用で社員個人宅に送付・保管する制度や、年間多数回の震災訓練を実施している。

ガバナンス(G)

AI社外取締役の導入は日本で最も早かったとの認識である。また、社外役員に学者・有識者が多いことは他社にあまりない特徴であり、有用な助言を受けているとしている。

人的資本経営

同社は社員を大切にする会社であるとの自己認識であり、住宅関連補助制度や子女の大学学費を最大で全額支給する奨学手当制度など、福利厚生の充実度は他社比較でもかなり高い水準にあるとしている。社員の福利厚生に対する満足度も非常に高い。社員の命を守り生活を豊かにする領域には惜しみなく資金を投じるカルチャーが根強くあり、創業以来約100年にわたり教育・報酬・福利厚生の各面で脈々と受け継がれているとの認識である。

報酬面では、2025年度の国内従業員一人当たり平均年間給与は約760万円である。全国レベルではなお改善余地があるとしつつ、石川県では金融機関を除く事業会社の上場企業として最も報酬が高いポジションにあるとしている。DSでは5年後の2030年度に一人当たり人件費を約960万円へ引き上げる方針を示しており、社員への還元を速いペースで高めている。

こうした取り組みの結果、社員の定着率、特に中堅社員の定着率は95%以上を維持している。AI関連では、日本ディープラーニング協会のジェネラリスト検定の取得を全社的に奨励し取得者率75%超を達成しており、先端技術に関する知識の社内共通化を人材育成の一環として進めている。

補足:ステークホルダーへのバランス還元と「創業98年のベンチャー企業」

同社が投資家に最も伝えたい点として、社員・株主・地域社会を含むステークホルダーに対し、どこかに集中させるのではなくバランス良く還元することを重視する企業体であるという認識を挙げている。その可視化手段としてDS(付加価値分配計算書)という新しい開示を取り入れ、付加価値の分配構造を発信している。

また「創業98年のベンチャー企業」と自称し、常に新しいことにチャレンジするカルチャーが根付いているとしている。これは現社長の三谷忠照がリードしてきた部分が大きく、結果的に直近10年で連結売上高を500億円以上伸長したことにもつながっているとの認識である。複合的な事業展開と、ベトナム一国に集中して子会社7社を展開する海外戦略も、他社比較で珍しい特徴との位置づけである。