本コンテンツは、ENVALITHが2026年8月に実施した、株式会社アクセルスペースホールディングス 経営陣への取材(インタビュー)に基づき編集・構成したものです。記載内容はいずれも取材時点における経営陣の見解です。
経営者の「言葉」と「ビジョン」
創業の原点とパーパスの浸透度
同社は2008年、学生時代に人工衛星の研究に携わっていたメンバー3名を含む計4名によって設立された。当時、日本国内では人工衛星事業はほぼ国や公的機関に限られており、民間で宇宙利用を広げたいという思いが創業の原点となっている。創業時から掲げるビジョンは「Space within Your Reach」であり、宇宙を特別な場所ではなく誰もが当たり前に使える場所にするという哲学のもと、小型人工衛星の開発・運用、さらには自社衛星によるデータ提供サービスへと事業領域を拡大してきた。
同ビジョンへの社員の共感度は非常に高いとの認識である。現在、社員の 3割弱が外国籍であり、約25の国と地域からメンバーが集まっている。こうした多国籍の人材が同社に参画する動機として、民間での宇宙活用を拡げるという「Space within Your Reach」のビジョンへの共感が大きいとしている。
5年後・10年後の世界観
小型衛星を活用した市場はまだ黎明期にあるとの認識である。足元では、国主導で宇宙を国家インフラとして整備しようとする動きが本格化しており、同社にとっても重要な事業機会と捉えている。ただし、この動きはインターネットの発展に類似しており、まずインフラが整備されるフェーズを経て、やがてそのデータを活用するエンドユーザーが増え、事業上の課題解決や生活の向上に宇宙が使われるサービスフェーズへと移行していくと見通している。
「今はしっかりとインフラができてくるフェーズ、そしてインフラに対して会社はしっかりとデータを提供するというフェーズ、そしてそのデータを活用してエンドのユーザーがどんどん増えていくというフェーズになっていく。当社は、この変化を大きな成長機会と捉え、市場の拡大とともに事業を発展させていきたいと考えています。」
同社としては、足元の産業成長をしっかり取り込みつつ、将来的にはサービス領域の広がりを成長の中核に据えていく方針である。
成長ストーリーの考え方
TAM(有効市場)と成長の余白
同社は2つの事業を展開しており、それぞれ異なる市場を主戦場としている。
- 軌道上実証サービス(AxelLiner)
小型衛星製造市場をベースに捉えており、同社が主に扱う100〜200kg級の衛星セグメントは2024年~2033年の今後10年間で約4倍に拡大すると見込んでいる。宇宙産業の成長に伴いコンポーネントメーカーが増加し、それらの部品を実際の宇宙環境で実証するニーズが拡大するという構造的な成長ドライバーが存在する。 急激な温度変化や放射線などの宇宙環境は地上で模擬した試験を行うことができるものの、実際の宇宙空間で複合的な環境下における性能や信頼性を確認することが重要である。そのため、製品を市場投入する上で軌道上実証は不可欠なプロセスであり、サプライヤーの増加に比例して軌道上実証の需要も増えていくとの見立てである。
- データサービス(AxelGlobe)
光学衛星画像データ市場は分解能のセグメントごとに競争構造が異なる。同社が主力とする光学・中分解能の領域では、グローバルで米Planet、欧州Airbus、そして同社の実質3社体制となっている。Airbusが高分解能へのシフトを進めていることから、中分解能における競争環境は同社にとって追い風になり得る。加えて、2028年5月期には高分解能衛星を新たに開発・打ち上げる計画であり、特に安全保障分野での需要を取り込む方針である。防衛省の衛星コンステレーションの整備・運営等事業には同社は協力企業の中で唯一の光学衛星画像提供者として参画しており、国内政府系案件の実績を足掛かりに海外市場への展開も視野に入れている。さらに将来的には、データ提供にとどまらずエンドユーザーの課題を解決するソリューション領域への拡張を構想している。
独自の競争優位性(Moat)
- コンステレーション構築のネットワーク外部性
衛星コンステレーションは一定規模がなければ顧客にサービスを提供できず、衛星の設計・製造・打ち上げ・運用にわたる多岐な技術とノウハウの蓄積が参入障壁となる。ロケット事業者との交渉・連携、打ち上げ後の運用まで含めた一気通貫の能力が必要であり、新規参入者にとってハードルは高い。
- 小型衛星設計の蓄積
2008年の創業以来、累計18機の衛星を打ち上げてきた実績があり、小型衛星の設計思想に関する豊富なノウハウを保有している。
- コストコントロール力
小型衛星は大型衛星と異なり、個々の衛星の一定の信頼性を確保した上で、複数機による冗長性も活用し、システム全体としてサービス継続性を高める 設計思想を採用している。長年の経験とテスト結果に基づき、宇宙専用品ではない民生品コンポーネントの中から宇宙環境で使用可能なものを調達・活用するノウハウがあり、これにより安価な衛星製造を実現している。
- 自動運用システム
多数機の衛星を自動で運用するシステムを早期から構築しており、運用コストの抑制に寄与している。管制の大部分が自動化されているため、コンステレーションの機数が増加しても運用費の増加は限定的である。
KPIの先行指標
| KPI | 備考 |
|---|---|
| パイプライン(案件数) | プロジェクトの受注パイプライン。ビジネスの性質上デイリーで変動するものではないが、将来の売上を見通す上で最も重視する指標 |
| コンステレーション機数 | 将来売上を創出するデータサービスのキャパシティ指標。2031年までに30機体制を目標として掲げている |
| 再訪頻度 | 同一地点の撮影頻度。コンステレーション機数に比例して向上し、顧客への提供価値・売上拡大に直結する。GRUS-3の商用運用開始により北緯25度以上の地点で1日1回の撮影が可能になる見通し |
収益構造と資本効率
売上高拡大のロードマップ
同社の成長戦略は、まずベースとなる安定収益を構築し、その上に新たな成長ドライバーを積み重ねていく考え方に基づいている。ベース収益のアンカーテナンシーとして位置づけるのが防衛省の衛星コンステレーションの整備・運営等事業であり、同社にとって極めて重要な案件となる。その上で、衛星データを活用したソリューションを創出・展開し、海外市場への展開も強化していく方針である。
規模の経済が働くポイントとして、データサービスではコンステレーション機数の増加による再訪頻度の向上に加え、衛星製造におけるコスト低減が鍵を握る。機数が揃うことで撮影カバレッジが広がり、顧客オーダーへの即応性が高まるため、これまで以上の売上成長が見込まれる。一方、製造面においても、機数の増加に伴う部材の一括調達や製造工程の標準化・効率化等を通じて、1機当たりの製造コスト低減が期待される。このように、機数の増加に伴い売上拡大とコスト効率化の双方で規模の経済が働くとの認識である。
軌道上実証サービスでは「定期便化」が成長のドライバーとなる。従来は案件ごとに衛星を開発・打ち上げる受注型モデルであったが、あらかじめ打ち上げスロットを設定し、そのスロットに向けて国内外の顧客を募集する定期便モデルへの転換を進めている。これにより、満載を前提とせずとも6〜7割程度の搭載率で安定的な収益を確保できるビジネスモデルの構築を目指している。
収益性改善のロードマップ
同社の2事業は収益構造が根本的に異なっている。
軌道上実証サービス(AxelLiner)は製造業に近い収益構造を持つビジネスである。衛星の開発・製造・打上げに係る費用は原則としてプロジェクト期間中の費用として計上され、衛星を資産として保有して継続的に収益を得るモデルではない。複数の顧客を1機の衛星に相乗りさせることで収益性を高める仕組みであり、 搭載率約6割の状態で粗利率40%程度を将来的な目標としている。搭載率の上昇に伴い、さらなる収益性の向上が期待できる一方、便ごとの搭載率にはばらつきがあるため、平均的な水準として同数値を目指す方針である。
データサービス(AxelGlobe)は固定費型のサービスビジネスであり、主たるコストは衛星の減価償却費である。運用費は自動化システムにより追加的なコスト増が小さく、損益分岐点を超えると追加売上に対する利益寄与が相対的に大きくなる構造となっている。国内安全保障でベース売上を確保した上で、海外市場の開拓によりコンステレーション全体の撮影に対する販売率を向上させることが収益性改善の鍵となる。
資本配分(キャピタル・アロケーション)の方針
| 優先順位 | 配分先 | 詳細 |
|---|---|---|
| 1 | 成長投資(オーガニック) | 衛星コンステレーションの構築・拡充を最優先とする。産業全体が成長フェーズにあり、ここで成長を取りに行くことが最重要との認識 |
| 2 | M&A・インオーガニック成長 | グローバルで海外勢が高速に展開する中、オーガニック成長だけではスピードが不足する場面もあるとの認識から、必要に応じてM&A・戦略投資も検討する方針 |
| ― | 株主還元 | 現時点では株主還元よりも成長投資を優先する方針 |
ROE・ROIC目標は現時点で外部開示可能な段階にはないが、市場が期待する水準を超えていかなければならないとの認識は持っている。
リスクへの向き合い方とレジリエンス
マクロ環境の変化への耐性
- インフレ・為替変動
衛星開発に必要な部材の一部は海外から調達しており、インフレおよび為替変動の影響を受ける。対策として、為替ヘッジの仕組みの検討、資金に余裕がある場合の前払いによる円建てロック等を組み合わせていく方針である。
- ナチュラルヘッジの構築
売上面でも海外顧客の獲得を進めることで、調達側の為替リスクを結果的に和らげていく考えである。衛星ビジネスは本質的にグローバルな事業であり、海外売上の拡大は為替リスクの自然なヘッジにもつながるとの認識を持っている。
ダウンサイドシナリオの想定
衛星事業は本質的に不確実性が高い産業であり、同社は主に3つのリスクシナリオを認識している。
第一に、ロケット打ち上げの失敗リスクである。衛星の打ち上げは外部のロケット事業者に依存しており、ロケット側の問題は同社のコントロール外となる。打ち上げ保険を活用している。
第二に、衛星本体の不具合リスクである。これに対しては、打ち上げ前にエンジニアリングモデル(EM)と呼ばれる実機と同等の試験機を製作して徹底的な試験を行うほか、コンステレーション機数を確保することで1機に故障が生じたとしても、サービス提供に影響のない体制を構築している。。
第三に、部材のサプライチェーンリスクである。想定どおりの納期で部材が届かないリスクに対しては、開発スケジュールにバッファを持たせるとともに、コアコンポーネントのサプライヤーとは日常的に良好な関係を維持し、情報共有を通じてリスクを低減している。
ガバナンスと執行体制
- 役員報酬体系
従来は固定報酬とストックオプションが中心であったが、株主価値向上と経営陣のインセンティブを一致させることが重要との認識のもと、業績連動型株式報酬および事後交付型株式報酬の導入を進めている。これにより株主と経営陣のインセンティブの方向性を揃えていく方針である。
- サクセッションプラン
中長期的な成長に向けて世代交代の必要性は認識しているものの、上場直後で足元の事業基盤を固めるフェーズにあるとの認識から、現在は、事業拡大を支えるミドルマネジメント層の育成と権限移譲を優先している。今後、こうした人材基盤の整備を、経営人材の選抜・育成を含む中長期的なサクセッションプランへ発展させていく考えである。
ESG・サステナビリティ
マテリアリティ(重要課題)と業績の連動
- 環境(E)
2つの側面で事業との連動がある。第一に、衛星画像データを活用した森林保護・環境モニタリングといったソリューション提供は、同社のデータサービスの重要な収益領域の1つである。第二に、衛星の開発・製造プロセスにおいても環境配慮を推進しており、宇宙デブリ(宇宙ゴミ)問題への対応にとどまらず、衛星のデザイン・製造・運用・廃棄に至るライフサイクル全体でサステナビリティを意識する「Green Spacecraft Standard」の取り組みを行っている。
- 社会(S)
約25の国と地域から集まる外国籍社員が全体の約3割を占める多様性に富んだ組織を構築しており、ダイバーシティが自然体で実現されている。
- ガバナンス(G)
業績連動型株式報酬の導入を通じた経営陣と株主のインセンティブ整合が直近の重点テーマである。
人的資本経営
同社の事業特性上、衛星開発に携わるエンジニアの確保と、グローバルビジネスの知見を持つ人材の採用が重要な経営課題となっている。現在、人事部門を中心に、従業員のスキルアップの仕組み、インセンティブ設計、エンゲージメント向上策について検討を進めている段階である。
ただし、具体的な計画への落とし込みには至っていないとしており、今後の整備が課題として認識されている。
補足:投資家が混同しやすい事業特性の整理
同社は、外部の投資家から事業特性について以下3点の誤解を受けやすいと認識しており、正確な理解を求めている。
第一に、SAR(合成開口レーダー)衛星と光学衛星の混同である。両者はそもそも用途が異なり、事業性や狙う市場も異なるが、「衛星データ」として一括りにされがちであるとの課題意識を持っている。
第二に、光学衛星プレイヤー内での分解能セグメントの違いである。世界的に光学衛星の大手プレイヤーは多数存在するが、その大半は高分解能・安全保障向けに集中しており、同社が主力とする中分解能セグメントでは実質的にグローバルで3社程度の競争環境にある。高分解能市場においても、日本国内でコンステレーションにより提供できるプレイヤーはほぼ存在せず、同社にとって明確な事業機会がある。
第三に、軌道上実証サービス(AxelLiner)の過小評価である。防衛コンステレーション案件の収益規模が大きいことからデータサービスに注目が集まりがちだが、軌道上実証サービスについても日本国内に比較対象となるプレイヤーがほとんど存在しない中で、同社は十分な勝機があると認識している。


